高齢者施設や老人ホームに入居して、自宅が空き家になる場合、その自宅は持ち続けた方が良いのでしょうか、それとも売却した方がよいのでしょうか?
この場合、主な選択肢として以下の3つが考えられます。
- 売却する
- 持ち続ける(空き家として所有する)
- 賃貸用物件にして人に貸す
3つめの賃貸用物件として人に貸すのが良いかどうかは、エリアや物件が、賃貸に適しているかが大きく影響します。
ここでは、1つめと2つめの選択肢、持ち続けるのか(空き家で所有するのか)、売却するのか、ではどちらが良いかについてご説明します。
自宅を持ち続けるのと売却するのではどちらが得か?
将来、自分が戻って住むか、あるいはご家族などが住むのでなければ、自宅を持ち続ける場合も、いずれは売却することになります。
「自宅を持ち続けるのと、売却するのでは、どちらが得か?」という問いは、つまり「今すぐ売るのと、将来売るのでは、どちらが得か?」という問いとほぼ同じになります。
売却のタイミングが年単位で変わる場合、大きな影響は、売れる価格の変化と税金の取り扱いです。
売れる価格の変化
売れる価格の変化には、市況の変化、ニーズの変化、物件の変化の3つの要素があります。
市況の変化は、単に価格が上がったり下がったりする市況の強さのことです。近くを新しく鉄道が通る計画がある場合や、土地区画整理事業が予定されている場合などを除くと、市況の変化を予測することは非常に困難です。したがって、これについては、あまり考慮するべきでは無いでしょう。
ニーズの変化は、どういった物件が好まれるのかという需要の変化です。少子化の進行やデザインについての感覚など、時代によって徐々に変わっていくものは多く、古くなるほど今の市場に合わない物件になっていく傾向もあります。
物件の変化は、主には建物の劣化です。建物は、新築時が最も状態がよく、それから徐々に傷んでいきます。外壁や屋根については、概ね15年ごとに全面的な修繕が必要です。
特に、空き家になると、換気が十分されないことなどから、建物の傷みが進みやすくなりますし、雨漏りなどの異常があった場合にも気付くことができません。
この観点からは、将来売るよりも今売る方が価格が高くなるのが一般的です。
税金の取り扱い
また、不動産の売却では、税金も大きな要素です。不動産を売却すると、売却によって生じた利益には税金(譲渡所得税・住民税)がかかります。
自宅の所有期間が長いと、多くの場合、売却によって利益が生じます。特に、前の世代から引き継いでいるお家の場合には、取得費が低いため、売却金額の大部分が利益になり、税額が大きくなる傾向があります。
しかし、自宅の場合には売却時に「3000万円の特別控除」という制度があり、その適用ができると、かなり税額を減らすことが可能です。
居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の特例
これは、マイホームを売却する時には、所有者1人あたり、最大3000万円の利益までを譲渡所得税・住民税の課税対象から外すことができる(控除することができる)という特例です。
自宅であること以外には、あまり厳しい適用要件がなく、一方でかなり強力な減税効果があります。
この特例は、一般的に「3000万円の特別控除」と言われています。
3000万円の特別控除が無い場合の税金
例えば、20年前に4000万円で購入した戸建住宅を8000万円で売却した場合を想定してみます。税金は、以下の式で計算されます。
譲渡所得税・住民税 =(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用 )× 税率
取得費は、物件を購入するのに要した金額ですが、建物については経年劣化による価値の損耗(減価償却)を考慮する必要があります(計算方法は別記事に詳細がありますので、ここでは省略します)。ここでは、減価償却考慮後の取得費を3500万円とします。
譲渡費用は、売却に要した費用です。具体的には、売却時の仲介手数料や測量費などです。こちらは、500万円かかったとします。
税率は、所有期間が5年超の場合20.315%です。
このケースの場合、譲渡所得税・住民税は以下のようになります。
(8000-3500-500)万円 × 20.315%
= 4000万円 × 20.315% = 約813万円
3000万円の特別控除の減税効果
次に、3000万円の特別控除が利用できる場合を考えます。控除がある場合、税金は以下の式で計算されます。
譲渡所得税・住民税 =(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除)× 税率
したがって、この時の譲渡所得税・住民税は、以下のようになります。
(8000-3500-500-3000)万円 × 20.315%
= 1000万円 × 20.315% = 約203万円
税金は、特別控除が無かった場合に比べて610万円ほど減少します。結果、手許に残る資金がこの金額分まるまる増えることになります。
ご夫婦で建物を共有している場合、それぞれにこの特例が利用できるため、最大で6000万円の控除を受けることができます。
高齢者施設や老人ホームに入居しても自宅と見なされるか?
居住用財産の売却の3000万円特別控除は、譲渡者が居住している家屋(とその敷地)に対して適用されます。
ただし、居住しなくなってからも、3年を経過する年の年末までに譲渡されるものは対象になります。(国税庁「No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき」参照)
国税庁によれば、「居住している家屋(自宅)」とは、実態として生活の本拠になっていることを意味しており、入院など一時的に施設に入る(自宅に戻ってくる前提がある)場合を除くと、高齢者施設や老人ホームへの入居は転居として認識する、という見解です。
つまり、高齢者施設や老人ホームへの入居すると、税務上、持ち家は自宅としては扱われなくなります。
なお、転居先の施設による違いは無いと考えていただいた方が良さそうです。
住民票を動かさなければ適用できるのか?
これについては、「住民票を動かさなければ良いのでは?」というご質問をいただくことがあります。
しかし、実態としての生活の本拠であることが要件ですので、住民票があるというだけでは本来、自宅には該当しません。
住民票の住所の物件であれば、他の資料を用意しなくても特例の適用を申請することが可能です。確認や税務調査がされなければ、そのまま申告が認められる可能性はありますが、適切な申告とは言えない可能性があります。
税務調査で、電気や水道の料金明細の提出を求められた、という話を聞くこともありますので、そのようなリスクのある手段は避けた方が良いでしょう。
したがって、実態としての転居をした場合、特別控除を受けるには、概ね3年以内に売却をする必要があります。
売却の開始は、お引っ越しの半年以内がオススメ
なお、売却には、ご自身の体調やご家族の事情など、様々な理由で想定よりも期間を要する場合がありますので、念のため1年程度の期間は見込んでおくべきと思います。
また、自宅の売却は、思い出や思い入れがあるために、タイミングを逃すとなかなか決断がしにくくなります。
落ち着いたら考えよう、荷物を片付けてから考えよう、と思って、気が付いたら4~5年経っていた、ということが非常によくあります。
しかし、特別控除の適用や建物劣化による価値の低下などを考えると、あまり期間を空けずに売却するのが本来は望ましいと考えられます。
弊社では、ご転居後に念のため少し期間を置くとしても、半年後以内を目安に売却を始めることをお勧めしています。