物件を賃借人に売却する方法

売却したい物件が賃貸中の場合、賃借人(借主・借り手)に売却するという方法もあります。賃主・借主間の売買は、双方にとってメリットの大きい取引です。ここでは、賃借人に売却するメリット・進め方・契約上の注意点をご説明します。

貸主借主で売買するメリット

賃貸中の物件の貸主・借主間売買には、お互いに以下のメリットがあります。

賃借人に売却するメリット

一戸建て住宅や登記面積で50㎡を超えるマンションなどは、自分が住むための家、つまり自己居住用の住宅として購入するニーズがほとんどです。賃貸中の場合には、買い手は自分が住むことはできないため、購入することができません。

賃貸中物件には住宅ローンが利用できないため、賃貸中物件を購入して、賃借人の退去後に自分が住む、という方法も取ることはできません。

ワンルームマンションなどの投資用物件は、空室よりも賃貸中の方が高く売れる傾向がありますが、戸建や2LDK以上のマンションは、面積が広いので、坪・㎡など面積あたりの賃料が狭いマンションよりも安く、利回りが低いため、投資用としては買いにくい物件です。

そのため、賃貸中の住宅の売却は、買い手が、将来空室になった際の転売を目的とする不動産会社や値上がり目的の個人投資家に限られてしまい、空室よりも価格が安くなる傾向があります。

しかし、賃借人への売却は、賃借人にとっては自己居住用としての購入で、住宅ローンの利用も可能なため、転売目的の買主よりも高い金額で売買できる可能性が高いのです。

賃借人が購入するメリット

賃貸中の物件の売買は、賃借人つまり借り手にとってもメリットがあります。

  1. 月々の支払額を下げることができる

  2. ​後に残らない家賃の支払いをローンの返済に変えることができる

  3. 住宅ローン減税など税の減免の適用を受けることができる

  4. 物件について十分理解できている

  5. 生活環境が変わらない

  6. 引越しが不要で、手間と費用が省ける

賃貸から持ち家に変わることは、金銭的に大きなメリットがあります。現在、住宅ローンは金利が非常に低いので、35年返済などで購入する場合には、月々の支払額は家賃よりも安く抑えられることがほとんどです。

月々の支払いの内容も、家賃と異なり、人に払うのではなく、自分のローンの返済に充てるため、いわゆる掛け捨てから、積み立てに変わり、自分自身の資産形成にも役立ちます。現在の超低金利下では、月々のローン返済の金額の大部分は元本返済になるため、家賃を支払っている時に比べると、資産としては年に百万円以上のプラスになります。加えて、住宅ローン控除の適用を受けることで、所得税・住民税の減税を受けることも可能です。

また、住宅購入におけるリスクやデメリットにあたる、物件の使い勝手や状態が想定と異なる、生活環境が変わってしまう、引っ越しの手間・費用がかかる、も回避することができます。

特に、お子さんが地域の学校等に通っている場合などには、転校などをする必要がなく、お友達や教育環境が変わらないことは非常に大きなメリットでしょう。

売買交渉の窓口

賃借人への物件売却を行うには、貸主側から申し出る場合と借主側から申し出る場合の2通りがあります。いずれから申し出る場合も、以下の3つのいずれかの方法になります。

  • 貸主と借主が直接やり取りする方法

  • 賃貸管理会社を窓口にする方法

  • 売買仲介会社を窓口にする方法

​どの方法を取ることも可能ですが、お勧めは3つ目の売買仲介会社を窓口にする方法です。以下、それぞれの方法について、ご説明します。

貸主と借主が直接やり取りをする方法

直接交渉を行う方法は、仲介手数料がかからない、というのがメリットでしょう。

ただ、売主と買主の双方が不動産のプロであるような場合を除くと、完全に仲介会社抜きで売買を行えることはほとんどありません。理由は、買主が住宅ローンを利用する場合に、金融機関から仲介会社の利用を求められることや、問題の無く取引を進めるため、お互いのリスク回避のためにも仲介会社が必要だからです。

また、貸主と借主が直接交渉する方法では、結果として、交渉がこじれたり、上手くいかなかった場合に、賃貸契約にも影響がでる可能性があります。

相手方の決まっている取引では、仲介会社が仲介手数料を割り引くことも多いので、その点も含めてメリット・デメリットを考えると良いでしょう。

賃貸管理会社を窓口にする方法

賃貸に管理会社が介在している場合には、最初のやり取りは管理会社が窓口となり、売買が成立する段階で仲介会社や売買担当者にスイッチすることが多いです。

管理会社も、免許や資格の点では、売買仲介は可能なことが多いですが、十分な知識・経験がないと売主・買主にとってリスクがあるため、売買成立の際には、賃貸管理の担当者は売買仲介をせず、関係のある仲介会社や売買担当者が間に入るのが一般的です。

賃貸管理会社を窓口にする方法は、貸主・借主の両者と信頼関係が構築できているという点で、大きなメリットがあります。

一方、デメリットには以下のものが挙げられます。​

  • 売買取引について詳しくない

  • 賃貸契約が無くなるため売買に前向きでない

  • 立場上、貸主側の味方になり過ぎてしまう

同じ不動産と言っても、賃貸管理と売買仲介では全く業務内容が異なるため、ほとんどの管理担当者は売買に詳しくありません。売買の適切な説明やスムーズな交渉などは難しいことがあるでしょう。

また、管理会社の本業は、日々の賃貸物件の管理です。売買は、管理する賃貸物件の減少、つまり月々の報酬の減少につながります。売買仲介を他社や他部署の人が担当すると、管理物件の減少と釣り合うプラスにはならず、前向きになりにくい構造になっています。

管理会社は、オーナーつまり貸主から管理料をいただく仕事で、オーナーが最も大事な顧客であるため、売買交渉においても貸主側の味方になり過ぎる傾向があります。​これは、売主にとっては良いことに思われるかもしれませんが、買主つまり借主は、自分にとって不利な取引になりそうだと感じると売買取引は成立しないため、売買の観点からはデメリットになります。

売買仲介会社を窓口にする方法

売買仲介会社が窓口になるメリットには、以下のものがあります。

  • 売買に詳しい

  • 売主・買主の双方に中立

  • 売買を成立させるインセンティブが高い

  • 売買交渉が不成立時のマイナスが少ない

通常の売買では、売主・買主は、それぞれ複数の候補の中から買い手や購入物件を選ぶことができます。しかし、貸主・借主間の売買では、お互いに相手を選ぶことができません。したがって、失敗せずに話を進めることが必要なため、売買に詳しいことは大きなメリットです。

売買の成立には、平等であることが必須です。売買仲介会社は、賃貸契約とは関係が無いので、​売主・買主の双方に平等に対応することが可能です。また、売買契約の仲介手数料は、売買が成立した場合の成功報酬ですから、仲介会社は売買契約の成立に向けて前向きに尽力することができます。

どちらかの事情等で売買が不成立になる場合も、売買仲介会社は賃貸契約には関係していないので、賃貸関係に悪影響を及ぼすことはありません。

デメリットは、どの仲介会社を選べば良いか分かりにくい・仲介会社によって対応に差がある、ということが挙げられます。

 

依頼先には、きちんとした、信頼感のある仲介会社・担当者を選ぶのが良いでしょう。信頼できる仲介会社・担当者がいる場合には、そちらにご相談するのが良いと思います。私どもでも対応しておりますので、必要でしたらお気軽にご相談ください。

売買仲介会社が窓口の場合の進め方

【貸主から借主へ購入を打診する場合】

  1. 貸主が売買仲介会社へ相談します

  2. 相談を受けた仲介会社は、希望の金額や時期、その他条件を確認します

  3. 仲介会社から、手紙等により、借主へ物件購入について打診をします

  4. 借主から、仲介会社へ回答があります

  5. 仲介会社は、借主に、物件購入のメリット、相場価格・住宅ローン等を説明します

  6. 借主に購入意思があれば、金額調整を行います

  7. 条件が整ったら、貸主・借主間で売買契約を締結します

  8. 売買契約後、借主は住宅ローンの手続きを進めます

  9. 売買代金の授受および所有権移転手続きを行います

物件の価格帯にもよりますが、仲介手数料は、法定上限報酬の半額(物件価格の1.5%+3万円)程度となることが多く、売主・買主の双方がそれぞれ負担します。

物件を賃借人に売却する場合の契約条件

賃貸中の物件を賃借人に売却する売買では、契約条件が通常の売買とは異なる項目があります。

◆賃貸借契約の消滅

買主が賃借人の場合、購入に伴い賃貸借契約が自動的に消滅します。

そこで、期間や金銭のやり取りで齟齬が出ないように、以下のような特約を設けるのが一般的です。


<売買契約書 特約例>

  • 売主・買主は、本物件について売主・買主間で締結している○○年○月○日付建物賃貸借契約が第○条の所有権移転と同時に終了することを確認しました。なお、買主はその前日までの建物賃借料を売主に支払うものとします。

  • 売主は、買主に対し、前項の建物賃貸借契約終了と同時に、買主が売主に対して預託している敷金○○円を返還するものとします。但し、売主・買主は、敷金の返還と本契約第○条の代金支払いの一部とを相殺できるものとします。

◆付帯設備表の不交付・物件状況報告書の交付

室内の設備については、売主が現状を確認できず、また、買主が十分理解しているはずということもあり、付帯設備表は不交付にするのが一般的です。


一方、物件状況報告書については、売主しか知り得ないこともあり得るため、ほとんど「不明」という記載になるとしても一応売主が書いて交付することが望ましいと考えられます。


<売買契約書 特約例>

  • 本契約締結日現在、買主が本物件を賃貸中のため、売主は、本契約第○条第○項の定めに拘わらず、「付帯設備表」の作成・交付を行わないものとします。

◆契約不適合責任免責(瑕疵担保免責)について

従来、瑕疵担保責任と言われていた責任は、2020年4月の民法改正により、契約不適合責任に変更されました。


賃借人に物件を売却する場合、物件の設備については、この契約不適合責任を免責とするのが一般的です(土地や建物の構造部分等については、免責としないのが一般的です)。


ただし、以下の場合には、免責とすることはできません。

  1. 売主が宅建業者で、買主が非宅建業者の場合

  2. 売主が法人等(事業者)で、買主が消費者の場合

1の場合、宅地建物取引業法の定めにより、2年よりも責任期間を短くすることはできません。


2の場合、消費者契約法により、売主事業者の契約不適合責任による損害賠償責任の全部又は一部を免除する特約は、事業者に対する追完請求権又は代金減額請求権がある場合を除き無効となる、とされています。


なお、契約不適合責任の期間については、1年とするのが標準的です。個人間での契約不適合責任の期間は3か月とされることが多く、また宅建業者の責任期間は最短2年となっているため、その中間程度として設定されています。

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